
今回から書き下ろしの新シリーズを始めます。名付けて「乗ったで降りたで静岡清水線」……。
まずはイントロダクション。2026年3月までのおよそ6年間、コラムを書かせていただいた鉄道系ニュースサイトの編集者に、こんなテーマの見付け方を教えていただきました。
「書くテーマに困ったら鉄道路線の各駅ルポをやるといい。沿線外の人はもちろん、普段通勤や通学でその路線を利用する人も途中駅はほぼスルーなので、通過駅近隣に何があるかをシリーズで紹介すれば、面白く読んでもらえるはず」。
そこで思い付いたのが、ご当地・静岡を走る鉄道のルポです。
静岡と清水、静岡市内の二大拠点をきめ細かく結ぶ静鉄

移住先の静岡市内を走る鉄道路線、JR東海が東海道新幹線と在来線のJR東海道線、私鉄は静岡鉄道(静鉄)静岡清水線のあわせて3線です。
市内の2大拠点は静岡と清水。2003年の平成の大合併まではそれぞれが別の市でした。静岡(駅)と清水(駅)の間、路線別ではJR東海道線は静岡方から静岡、東静岡、草薙、清水の4駅があります。
一方、一部でJRに並行する静鉄は起終点の新静岡と新清水はJR駅から離れた独立駅。中間には、新静岡の隣駅の日吉町から新清水の終点手前の入江岡まで13駅あります。地域をきめ細かく知るには、各駅ルポは静鉄がベターかも。
新シリーズは静岡清水線で、両端の新静岡と新清水はそれぞれ4回、中間13駅は各2回の連載で駅や沿線を紹介。写真は各回3点縛りで、全線をルポします。
タイトルはレールウェイライターの大先輩、故種村直樹さんの国鉄・私鉄全線完乗記「乗ったで降りたで完乗列車」(1983年の初版は創隆社。その後、講談社で文庫化)をリスペクトしました。
明治初期の主要輸出品・茶葉を運ぶ

まずは静岡清水線の歴史を一席。
鎖国が解かれて国際交易が本格化した明治初期、日本からの輸出品の中心は生糸と日本茶でした。健康志向が高まる現在、世界で日本酒や日本茶がブームといいますが、そうした兆候は明治の昔からあったわけです。
静岡の交易港といえば清水港。鉄道の開通前、物流(当時、こんな言葉はもちろんありませんが)手段はもっぱら牛車でした。県都近隣で収穫された茶葉は静岡に集荷され、牛車で清水港に運ばれました。
当然のように近代化の象徴の鉄道待望論が沸き起こり、地域の有力者が静岡~清水の鉄道を構想。1906年(明治39年)に静岡鉄道株式会社(現在の静鉄の前身に当たる会社です)が設立され、2年後の1908年末までに鷹匠町~清水波止場12.4㎞を開業させました。
ここで注目したいのは12.4㎞の路線長。現在の静岡清水線は新静岡~新清水11.0㎞で、初期の方が1.4㎞長かったわけです。開業時点の清水側は入江町、江尻新道、松原、波止場と駅が並び、現在の入江岡は入江町(線形が変わったので、入江岡と入江町は別駅と考えた方がベターでしょうが)、新清水は江尻新道でした。
戦前は、現在の新清水より先、清水波止場(ふ頭)まで線路が延びていたようです。静岡方起点の鷹匠町は現在の新静岡で、鷹匠は静岡市中心部の地名として今も残ります。
開業時の旧静鉄は線路幅762㎜のいわゆる軽便鉄道で、列車の先頭に立つのはSL。旧静鉄の社長は“軽便鉄道王”と称された雨宮敬次郎で、雨宮が率いた大日本軌道の傘下に入った静岡清水線は「大日本軌道静岡支社線」を名乗りました。
時代が明治から大正に変わると、静岡支社線は軽便鉄道から一般鉄道に。さらに電化、複線化と現代につながる輸送近代化の歩みをたどるのですが、静岡清水線ヒストリーはTo be continuedということで、静岡清水線の各駅ルポを始めます。
セノバの由来は「幸せの場」
県都の玄関駅「新静岡」。その駅名よりも静岡市民の皆さんに浸透しているのは、「セノバ」のネーミングかもしれません。正式名は「新静岡セノバ」で、鉄道駅とバスターミナルを中心にする複合施設、いわゆる駅ビルです。
前身は「新静岡センター」で1966年に開業。40年余の歴史を刻んだ後、老朽化で2009年に閉館しました。
跡地に建てられたのがセノバで2010年に起工、翌2011年10月に開業しました。セノバのネーミングは「幸せの場」や「待ち合わせの場」からという、いささか考え落ちな語呂合わせに加え、英語の「ceno」(「新しい」を表す接頭語)と、スペイン語「va」(「始まる」の意)の合成語だそうです。
確かにその通りかもしれませんが、開業から15年を経過して、今やそのことを記憶する静岡市民はかなり希少になりつつあるような気もします。
セノバは敷地面積1万4640㎡、延べ床面積9万4069㎡(ネット情報によります)の地上9階、地下1階建て。ファッション・雑貨、レストラン、食料品店、書店、医療機関などが入居します。新静岡に降り立った静鉄利用客は駅近隣の静岡県庁や静岡市役所、百貨店、銀行、飲食店などに向かいます。もちろん、セノバが目的という乗客も少なくなく、駅ビルは地域一番店として来店客を満足させます。

静鉄の電車は2両編成、駅も例えば隣駅の日吉町はいかにもローカル鉄道の雰囲気を感じさせますが、新静岡とセノバに関する限り、そのたたずまいは首都圏や関西圏の大手私鉄にも負けないものを感じさせてくれます。



コメント